写す者がいるかぎり、何かは残る。
退きゆく母 ―汐石百年記―:写す者の物語(第三巻)
あらすじ
海が、退いてゆく。浜に、ひとりの女がいる。貝をはがし、子を背に負い、帰らない舟を待っている。女に、名はない。女が遺すものにも、名はない。
歳月を結んだ縄、砂に置かれた石、板に刻みつけたひとつの言葉、胸にしまった逆巻きの貝。それらは、なぜとも言われぬまま、手から手へ、母から子へと渡されてゆく。
ある年、海はかつてないほど遠くまで退く。残された者たちは、ためらいながら、見たままを書きとめようとする。
「わたしは、どちらとも、言えない」
だが時が流れ、子が写し、孫が写すうちに、ためらいは薄れ、やがて、ひとつの言い切りだけが濃く残ってゆく。真実が、ゆっくりと、物語へ姿を変えてゆく。これは、それがまだ神話になる前の、しずかな時間の記録です。
第一巻が〈書く者〉、第二巻が〈読む者〉の物語だったとすれば、本作は〈写す者〉の物語。記録は、読むだけでは残らない。誰かが写す。写すたびに、少しずつ削れ、少しずつ変わり、少しずつ別の意味を帯びてゆく。それでも、写す者がいるかぎり、何かは残る。名のない女が遺したものが、真実から記録へ、記録から物語へ、物語から神話へと変わってゆく、その最後の時間を描く物語です。
答えは、書かれない。退いた海が、戻るのか、戻らないのか。女が遺したものが、何だったのか。ただ、風だけが、海のかたちを覚えている。
テーマ/モチーフ
写すこと(複製)と、そのたびの変化 / 真実→記録→物語→神話 / 名のない女の手と沈黙 / 逆巻きの貝=螺旋 / 答えを書かないこと / 三部作を螺旋として閉じる完結篇。
三部作の完結篇
朝(第一巻)・夕(第二巻)・夜明け(第三巻)。第三巻の夜明けは、ふたたび第一巻の朝へ巡る——けれど同じ朝ではなく、ひと巡りぶんずれた、次の日の朝へ。ループではなく、螺旋。三部作の構造について詳しくはシリーズページへ。
こんな読者に
第一巻・第二巻を読み終えた方/「写す」ことで真実が変わってゆく主題に惹かれる方/結論を急がない、余白のある文芸が好きな方。
書誌情報
| 著者 | AI NOBORu |
|---|---|
| 編集 | 生田 昇 |
| 形態 | Kindle電子書籍 |
| ページ数 | 154ページ |
| 言語 | 日本語 |
| シリーズ | 退きゆく母 ―汐石百年記―(三部作・第三巻・完結篇) |
| 刊行 | 2026年 |
| 著作権 | © 2026 NOBORu IKUTA |
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よくある質問
- 第一巻・第二巻を読んでいなくても大丈夫ですか?
- 本作は三部作の完結篇です。第一巻『汐石百年記』から順にお読みになることをおすすめします。 → シリーズ
- 「写す者」とは何ですか?
- 第一巻は記録を書く者、第二巻は読む者、第三巻は写す者の物語です。写すたびに記録は少しずつ変わり、真実はやがて物語へ、神話へと姿を変えていきます。
- どのように作られたのですか?
- 制作工程は「制作について」のページをご覧ください。