和算を知る / 和算の蘊蓄
計算の向こうに、人がいる。
話答えを載せない本。数学を運ぶ旅人。元の額がなくても生き残った問題。和算の面白さは、式の外にもあります。
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01 / 遺題
解答のない巻末が、次の本を生んだ。
1641年の『塵劫記』には、答えを示さない12問が置かれました。解いた人が解答と新しい難問を発表し、さらに別の人へ問いが渡る。学ぶだけの本が、研究を始めるきっかけにもなったのです。
今の何に似ている?
公開された挑戦問題に、いろいろな人が挑む点では、現代の数学コンテストにも似ています。ただし同じ制度ではなく、当時は流派や秘伝、写本による伝授も同居していました。
02 / 算額
数学の問題を、寺社に掲げる。
算額は数学の問題を記した絵馬です。円や三角形が色鮮やかに描かれ、問題や答えが添えられました。奉納の文化の中に、解けた喜びや学びのつながりが残っています。
昔の問題は、今も全部残っている?
火災や破損、紛失で残らなかった額もあります。実物、後世の複製、書物への転記は別の資料。写真を見るときにも、何を撮ったものかを確かめる必要があります。
03 / 遊歴算家
旅日記の中に、数学が324題。
各地を旅して数学を教えた「遊歴算家」がいました。山口和の『道中日記』には、遊歴中に見た算額の問題が324題、書き写されています。人が歩くことも、数学を伝える方法でした。
04 / 円周率
速く計算するために、「誤差」を読む。
円に近い多角形を作り、辺を増やすだけでも円周率へ近づけます。関や建部の研究で面白いのは、近似値の変わり方を調べ、計算の進め方そのものを工夫したことです。
建部は円周率を何桁求めた?
ここでは「四十桁級」と表します。書かれた桁数、正しく一致する桁数、途中の計算に使った桁数は別だからです。関の三つの値を使う増約と、建部の平方周長による工夫も、一つの算法に混ぜません。
計算室の「円理と増約」は、その一部を現代の小数計算で体験するもの。建部の全手順・全作業桁を復元した装置ではありません。
05 / 六球連鎖
六つ進むと、同じ球に戻る。
大きな球の内側に、その内面と互いに接する二つの固定球を置く。この三つの球面と前の小球に接するよう、引き返さずに次の小球をつなぐ。退化していない配置では、一周すると六つで輪が閉じるのが六球連鎖です。いつでも好きな六球を並べればよい、という話ではありません。
入澤新太郎の1822年の算額として伝わる問題は、1832年の『古今算鑑』にも記録されます。Soddyの初報は1936年12月5日。年の差は114年です。1937年の後続論考と初報を取り違えないようにします。
大きさが戻れば、証明になる?
同じ大きさのボールでも、別の場所に置けます。だから、球の径が繰り返すことと、中心の位置まで元に戻ることは別に確かめます。現代の反転幾何による説明を、そのまま入澤本人の証明として語ることもできません。
計算室の「六球連鎖」では、開始位置を変えて、6球の半径と中心座標を計算できます。24組の接触、非隣接球の非重複、7番目の球が最初の位置へ戻ることを検算します。
06 / 数列
江戸とバーゼルで、同じ係数が現れた。
1の平方、2の平方、3の平方……をまとめて足すには? さらに三乗、四乗へ進むと、共通する係数が現れます。関の研究と、ヤコブ・ベルヌーイの研究には、現在ベルヌーイ数と呼ぶ数列に対応する成果があります。
1712年と1713年は、何の差?
『括要算法』は1712年、『Ars Conjectandi』は1713年の死後刊行です。出版が一年早いことだけで、発見日まで一年早いとは決められません。比べるのは、数式の内容と史料に残る記録です。
07 / 百五減算
余りだけで、数が分かる?
3で割ると2余り、5で割ると3余り、7で割ると2余る。最小の非負整数は23です。でも答えは23だけではなく、105ずつ増やしても同じ余り。3 × 5 × 7 = 105 が、その繰り返しを決めています。
この問題の源流は中国の『孫子算経』。日本でも「百五減算」として親しまれました。日本で育った数学を知ることは、知識が渡ってきた道を知ることでもあります。
余りから数を復元する →08 / 継承
明治になった翌日、消えたわけではない。
学校の方針が洋算へ移っても、和算で学んだ人が教壇に立ち、地域の塾も続きました。和算を調べ、資料を集め、次の世代に残した人々もいます。今、私たちが原典を読めるのは、その仕事があるからです。
09 / 源氏香
五つの香りから、52通り
源氏香の図は、五つの香の同じ・違うを52通りに整理します。現代数学では、五つの異なる対象を空でない組に分ける総数はベル数 B₅=52 です。江戸の人が「ベル数」という名称を使ったわけではありません。後世の数学史研究が、和算の数え上げと現代の組合せ数との対応を調べています。
ベル数52を計算する →